丹沢湖
2018月11月12日

本質を追求し、知恵と体験を届ける教育者ーNPO法人共和のもり 富山基録さん

神奈川県足柄上郡山北町、丹沢湖近くの標高400Mほどの、大野山の中腹。旧共和村(1955年に共和村・三保村・清水村が合併)の名称を受け継ぐこの地域に、様々なことを仕掛ける70代の男性が2人います。今回はそのおひとりであるNPO法人共和のもり 副理事長の富山基録(とみやま・きろく)さんにお話を伺いました。
※もう1人の井上正文さんの紹介はリンクよりご覧ください。

年間多くのイベントで賑わいをみせる共和地域ですが、その背景には、仕掛け人のひとりである富山さんの人生経験から得られた考え方や価値観がありました。

-NPOの活動と自身の想いを語る富山さん

知恵と知識を身につけて、子ども達に生きる力を

「NPOの活動のひとつである、青少年健全育成会の責任者を2006年から務めています。私が引き受ける前は予算をあまりうまく使えていなかったようで、せっかくなら、最大限子どもたちの為に使いたいと思い、現在に至ります。

石鹸作りやうどん作り、豆腐作りなどいろいろ企画しました。なかでも秋刀魚(さんま)を炭で焼いて食べる「さんまの夕べ(毎年10月頃開催)」がかれこれ10年ほど続く一大イベントになりました。このイベントでは子どもたちが秋刀魚を炭火で焼き、さんまの炊き込みご飯とお味噌汁を作ったりします。最初は地域の方だけに声をかけて開催していましたが、今は近隣市町村の方が100人くらい集まるんですよ。

炭焼き自体を「炭焼き体験教室(毎年2月頃開催)」で炭焼きファンクラブ員と一緒にやっています。これも「さんまの夕べ」と並ぶ人気イベントになりました。炭はいろいろな用途があり、生活の中で活用できる研究結果がある。炭は過去のものじゃないよというのを伝えていきたい。まだわからないこともあるけれど、炭は使い方でたくさんの魅力があると思っています。」

-同じチラシでもデザインの試行錯誤がわかる

 

「私は青少年健全育成会の責任者ですが、”人間を育てる”なんて簡単にはできないことだと思っています。せめて、自分で自分のご飯くらい作れるよう、子どもたちが実際に手を動かして料理するイベントを企画しました。それが”ウラジロガシ子ども宿泊体験教室”です。1泊2日のスケジュール内容を小学生の参加者が話し合って決めます。本当は、子どもたちはすごく料理をしたいんですよね。それを、包丁が危ないなどと大人がその機会を奪ってしまってはいけないと思っています。
私は教員を27年間やっていた経験があるので……あれ、1940年生まれで今78才※だから45年前だよな(笑)。※2018年取材当時

訳あって33歳という年齢で教員になったのですが、教員時代は校長に睨まれ、怒られながらいろいろなことをやりました。なぜかというと、宿題は出さないし、休みになれば親や子どもと一緒にあっちこっち行ったり、学校行事にない餅つき大会を勝手にやったりしてたから。
でも、子どもたちが楽しめて、教育にいいことならやればいいじゃないかと、当時からそう考えていました。

そういった機会を、共和地域の子どもたちにもできるだけ小さい頃から与えたいなと。豆腐だってマヨネーズだって自分で作る。お金を出して買うことは簡単なこと。そうじゃなくて、自分の身体と五感を使って、自分で触れて作るっていうことが大事じゃないのかなって想いが今も私の中にあります。」

-究極に美味しい秋刀魚を求めて毎年いい香りが漂う

 

「イベントもやるとなったら、とことんやる。いい炭を焼きたい、究極に美味しい秋刀魚を焼きたい。中途半端は嫌です。普通に焼くと皮が剥がれ、肉が焦げてしまいますが、秋刀魚の焼き方のコツは皮を破らないことです。皮が破れてもみんな美味しいと食べるけれど、破らないで焼くと中が遠赤外線で蒸されて全然味が違うんです。

そういうのも子どもたちに覚えて欲しいなと思います。「本当に美味しいものはお金かけるもんじゃないべ」っていうのが私の考えです。「金で買えるもんじゃない、違うべ」と。私たち庶民の生活の中で、工夫すれば美味しいものはできる。その為には知恵と知識を使わないといけない。知恵と知識は体験しないと育たない、という想いが青少年健全育成会の活動に繋がっています。」

KJ法の前身となる紙切れ法で作り上げたグランドデザイン

人気イベント「さんまの夕べ」「炭焼き体験教室」の他にも、NPO共和のもりは様々な分野の活動を精力的に行っています。富山さんがそれらの活動をどのように実現したのかを伺いました。

-壁に貼り出してある「共和のグランドデザイン」

 

「過疎化が進むこの地域で、地域振興会をもっと有用に運営しようということで、2011年に私たちが主体となって活動を見直しました。

一般的にNPOという組織は、1つの活動をメインに掲げていることが多いように思います。一方、共和のもりの特徴は、教育や福祉など11もの活動があります。地域を活性化するためにいいことは全てやろうという判断で、まずは「共和のグランドデザイン」を作りました。」

-たくさんの活動が分類し整理されている

 

「1年半くらいかけて、地域の有志14〜15人くらいで集まって作りました。「何をしたいか」「誰がやるのか」「どこでやるのか」を彼らに書き出してもらって、それらを整理していく作業を私がやりました。

アイデア出した後は、出しっ放しじゃダメなんです。それらの枠組みを作ったり、柱立てしたりしていかないといけない。これまでもあれこれ意見は出ていましたが、会議が終わったら終わり。そういうことをやっているうちは何もならないと感じて、この共和のグランドデザイン作りに取り組みました。」

-紙切れ法を巧みに使いこなす富山さん

 

「厳密には異なりますが、東京にいた頃に今でいうKJ法※を少し勉強したんです。みんなに自分のやりたいことを1枚に1つずつ書いてもらって、同じようなものを組み合わせ、みんなが見える場所に貼っておいて、柱を作って同じようなものはまとめて剥がしていく。それらを1990年代に私たちは「紙切れ法」と読んでいました。ある程度まとまってきた時に、これらの活動のタイトル(柱)を何にするかという話をして、みんなで考えました。私一人で決めたわけじゃない、というのが大事なポイントです。

※KJ法…ブレーンストーミング等によって収集した情報を、効率よく整理・分析するための手法。

そうやって整理した活動の中に、自分が責任者としてやっているものが5つも6つもあります。他の人からなんでそんなにやるのって言われますよ(笑)。でも、自分がやりたくて、それが地域の人にも喜んでもらえるんだったら、こんな幸せなことないなって思うんです。自分がやりたいことをやる。でも人のためにやってるんじゃダメ。自分が楽しければよかっぺよって。」

豊かな人間に必要なもの「アナログ」

1990年代に、現代でも応用される方法を使って地域の活動を整えた富山さん。その土台の上で企画されるイベントのチラシは、富山さんの手作りです。こだわりのデザインはどのように作られているのでしょうか。

-チャーミングな冗談で場を明るい雰囲気に

 

「パソコンも習ったんだけど面倒くさくて(笑)。 便利さは理解しています。ただ、全てを手書きでやって来た人間はね、絶妙で感覚的な部分をパソコンで表現するのが難しいです。例えばこの字のスタイルや余白もパソコンじゃできなくて、時間はかかるけれど全部手で書いています。

私の考えは、チラシは人に出すものだから”読みやすさ”が一番重視されるべきだと思います。そうなると、できるだけ丁寧に書く。読みやすい字を教員時代に一生懸命習いました。でも、自分が作ったチラシを見ても、まだまだ十分じゃない。こんなんじゃ俺は満足しない。よくできたなって思うことも稀にあるけれど、でもほとんどダメだね。何度も作り直してもどうも気に入らないことが多いけれど、時間が足りなくて仕方ないから、印刷しているような感じです。」

「パソコンを使わない私ですが、自分のことを「デジタル人間」だと思っています。
人間が生きていく上で「アナログ」的な思考っていうのはすごく大事だな、と思っていて、自分を客観的に見た時に、「アナログ」の部分がまだ全然足りないと認識しています。

「デジタル」的なものの説明が難しいのだけれど、効率性もそのひとつです。垂直的で曲線的ではないというか。「遊び」が足りない。まっすぐな人間は考え方も広がっていかなくて、どんどん狭まっていくとひとつの方向にしかいけない。それは「デジタル人間」なんです。

人間は部分やパーツでできてるわけではないから、感性や感覚などを全てひっくるめてトータルで人間ができている。そんな「アナログ」的なもの、「曲線的な人生」が、豊かな人間をつくることができるのだろうと思いながら、日々この活動を行っています。」

 

■イベント情報

白菜キムチ作り体験教室
本格的なキムチを2日間に渡って手作りするイベントです。

第1回:2018年12月1日(土)16:00~17:30

12月2日(日)9:00~12:30

第2回:2018年12月15日(土)16:00~17:30

12月16日(日)9:00~12:30

場所:共和のもりセンター(足柄上郡山北町皆瀬川275)

内容

各回1日目:白菜の塩漬け作業

各回2日目:キムチの塩を落とし、タレを作り白菜に塗る本漬け作業

出来上がった白菜のキムチを半株持ち帰れます。

※2日間で1回の体験です。

持ち物:キムチを持ち帰る容器、エプロン、手ぬぐい

参加費用:1,500円

申込方法(先着12名)

名前・連絡先・参加希望日を上記チラシに明記の上、下記申込先にFAXにて送付

もしくは電話でご連絡下さい。

申込先:富山基録 電話・FAX:0465-76-3908

 

関連リンク:『NPO法人 共和のもり』未来の森と地域を守る関連リンク:共和のもり通信【山北町共和地区】Facebook

関連リンク:要望型から創意工夫型へ。「意識の変化」が山と地域を変えていくー 井上正文さん

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